石毛事件

 最近Apemanさんの所で話題になっている「ごぼうを捕虜に食べさせて有罪になったB級戦犯」は都市伝説? - Apeman’s diaryについてだけど、このエントリのコメント欄で言及されている捕虜に灸を据えて有罪となったB級戦犯について書かれた本を見つけた。

 

法廷の星条旗―BC級戦犯横浜裁判の記録

法廷の星条旗―BC級戦犯横浜裁判の記録


 この事件は神奈川県の日本鋼管川崎工場(現在のNKK京浜製鉄所渡田工場)内に設置された東京俘虜収容所第五分所*1を舞台とする捕虜虐待事件である。
 分所長であった石毛通冶と警備員であった軍属・斉藤正吉(仮名)同・矢田泰夫(仮名)が戦犯として裁かれた。

 分所長であった石毛の罪状として挙げられたのは十分な医療や適切な食事を与えることを怠ったことによる俘虜二名の死亡と九項目にわたる俘虜虐待の事例である。灸を据えたことを虐待とされたのは

(a) キース・J・マックウェン伍長とイッシュミル・L・グッジオン(Ishmeal L. Gudgeon)一等兵の両名の身体の多数箇所にやけどを負わせ、うちキース・J・マックウェン伍長を死に至らしめた。 
P194

の部分である。この罪状に該当したのは石毛と斉藤の二名で矢田は灸や致死行為には関わっていない。

 この裁判で弁護人は「灸療法」について正当な治療行為であり、虐待ではないということにかなりこだわった立証活動を行っている。鍼灸師を証人として出廷させ、実際に法廷で被告人斉藤を相手として灸の実演も行わせたり、またモグサを取り扱う薬物商も出廷させ、鍼灸師でなくても適宜治療を行うことができるとの証言もさせている。
 ただ、検察官は鍼灸師に対する反対尋問で「モグサは、日本では子どもの処罰に使われるのではないか」という質問もし、「はい」という回答も得ている。懲罰としての「灸を据える」ということをアメリカ人検察官が指摘していることは、ある程度日本の文化について理解があったということを意味している。

 判決では石毛も斉藤の罪状項目どおりの有罪認定を受けている。判決は結論のみで詳細は不明であるが、日本で鍼灸が一般的な治療であることは認識していたが、一種の体罰として使用されることもあり、この件に関しては虐待と認定したのではないかと思われる。

 あと、ゴボウに関する資料がないかと思ったのたのだが、

 世間的には、戦犯裁判では、東洋の灸療法が欧米人には火傷をともなう虐待行為となり、野菜である「ゴボウ」を俘虜に食させたことが、木の根っこを食べさせたとして虐待になるというように、風俗・文化の違い、食生活の違いから俘虜たちが誤解したというような評価がなされている。                           P201

という記載はあったのだが、ゴボウを食べさせたことにより戦犯裁判で裁かれた人物がいたかどうかははっきりと書いていなかった。

*1:この呼称は正確ではないらしいが、同書の記述にしたがう。P193注