藪蛇

 id:hagakurekakugoさんのところで紹介されている朝日新聞記事だけれども、Apemanさんが解説されているように、以前から存在が知られていたものが、最近の慰安婦問題でニュースバリューが出来てしまったということだろう。

 実際、朝日の記事に出ている林博史教授は1998年出版の本で以下のような事例を紹介している。

 ところで戦争犯罪の捜査員のなかには日本軍の慰安婦制度を戦争犯罪と考えていた者がいないわけではなかった。イギリスではないが英連邦の一員であるオーストラリアの戦争犯罪捜査員に加わり東京で活動していたニュージーランド人ジェイムズ・ゴッドウィン大尉はその一人だった。
中略
 彼はGHQの上層部から捜査を止められたケースとして天皇七三一部隊のケースと並んで慰安婦問題があったという。「約二五万人の女性が、公式に設置された数え切れないほどの慰安所(売春宿)で、好色な日本帝国陸軍の欲求に(無報酬で)奉仕する売春を強要されていたといううわさ、いや証拠があった。これらの深刻な問題はわれわれのあいだで議論された。しかしアメリカの民主主義の建前にとっては奇妙なことに、捜査に対する包括的な検閲と禁止が課せられた。私は自問している。一体なにが起きているのか。」(Betrayal in High Places p177)
ゴッドウィンは日本軍が占領したすべての地域で日本軍の「性奴隷産業」(ibid.,p.210)がおこなわれていたことを知っていた。そしてその捜査を抑えているのはマッカーサーとG2のウイロビーだと推測している。彼はいくつかの戦争犯罪を政治的な判断で裁かないという「選択された正義」(ibid.,p.162)に強く反発していた。
 このことは連合軍の戦争犯罪捜査員のなかには日本軍の慰安婦制度を戦争犯罪と考えていた人たちがいたこと、GHQすなわち米軍が慰安婦制度自体の捜査を抑えていたことを示している。

裁かれた戦争犯罪―イギリスの対日戦犯裁判 P277〜P278