中華人民共和国政府は反人権的だ。だから、南京事件が焦点化される。

アジア太平洋戦争での日本が犯した戦争犯罪で、もっとも有名なのが南京事件(南京大虐殺)だろう。私自身は戦争犯罪よりはそれに対する戦犯裁判に関心があることと、ネット上でもかなりの資料や考察の蓄積があることから積極的には関わってこなかった。さらに殊更南京事件には興味がないと言いつつ言及する人たちの動機に不審があるのも関わろうと思えない理由の一つだ。
実際、前に書いたように実質的には中国政府に対する反感や蔑視感情を南京事件への疑問と称して表明しているとしか思えないコメントも良く見かける。
id:CloseToTheWallさんが端的に表現されているように

彼らは疑っている、というよりは中国の言うことだからウソ、誇張が混じっているのは当然だろうという、彼らのうちでは至極「常識的」な判断をほとんど脊髄反射のように行っているに過ぎないのではないかと思うからだ。
「でも、30万はウソなんでしょ?」とか「30万人説を否定しただけ」という発言 - Close To The Wall

だが、こういったコメントをする多くの人が失念している、あるいは最初から見落としているのが対中国に限定しても日本の戦争犯罪は幾つもあるということだ。
今回はてな界隈で話題になったのは「30万人説」であるが、この説を否定する多くの人は、中国が水増しした数字をもって日本を非難していると捉えているようだ。しかし、わざわざ南京事件の被害者数を増やさなくとももっと大規模な戦争犯罪も存在するし(華北の燼滅掃討作戦は被害者数200万人以上という推定もある) *1、現在でも被害者が発生している遺棄化学兵器(毒ガス弾)の問題もある。*2

言ってみれば中華人民共和国政府は南京事件に拘らずとも、手札は他に幾つも持っているのにそれを使おうとはしていないのだ。*3南京事件のみが問題視されるのは戦犯裁判(極東軍事裁判、南京軍事法廷)で裁かれ、否定論を野放しにしていては国際的な面子に関わるからだろう。
つまり、中国政府は戦争犯罪を問題視するのは自らにとってあまり益が無いと判断しているのだろう。それは自国民の被害よりも政府益を優先するという非人道的な判断であり、日本の戦争犯罪を矮小化したがる勢力にとって最大の共犯者として中国政府が存在してきたことを意味する。